「最近、人の名前がすぐに出てこない」「メガネをどこに置いたか忘れた」。年齢を重ねると、こうした物忘れは誰にでも起こります。では、年齢による物忘れと認知症の違いはどこにあるのでしょうか。
この記事では、加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いを、よく使われる目安をもとに整理します。あわせて、気をつけたいサインと、気になったときの相談先もご紹介します。なお、ここでの内容は診断のためのものではありません。
年齢による物忘れはよくあること
年齢とともに、新しいことを覚えるのに時間がかかったり、言葉や名前が「のどまで出かかって」出てこなかったりするのは、ごく自然な変化です。後から「あ、そうだった」と思い出せる、メモやカレンダーを使えば暮らしに困らない、という場合は、多くは年齢相応の物忘れと考えられています。
年齢による物忘れとしてよく見られるのは、たとえば次のようなことです。
- テレビに出ている俳優の名前が、顔はわかるのに出てこない
- 2階に上がったのに、何を取りに来たのか一瞬忘れる
- 鍵やメガネを置いた場所を探す
- 友人との約束を、手帳を見て思い出す
どれも多くの人が経験することで、それだけで心配する必要はありません。
疲れや睡眠不足、心配ごと、聞こえにくさや見えにくさなども、物忘れを増やす原因になります。体調や生活の様子もあわせて見てみましょう。
物忘れと認知症の違い(比較表)
一般的によく使われる目安を表にまとめました。あくまで目安で、これだけで判断できるものではありません。
| 年齢による物忘れ | 認知症による物忘れ | |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる(夕食の献立を思い出せない) | 体験そのものを忘れる(夕食を食べたこと自体を忘れる) |
| ヒント | ヒントがあれば思い出せることが多い | ヒントがあっても思い出しにくい |
| 自覚 | 忘れっぽくなったと自分で気づいている | 忘れていることに気づきにくいことがある |
| 暮らしへの影響 | 大きな支障はない | 家事や買い物、お金の管理などに支障が出てくる |
| 変化の速さ | ゆるやか | 少しずつ進むことが多い |
気をつけたい認知症の初期症状のサイン
公益社団法人認知症の人と家族の会は、家族の経験をもとにした「認知症」早期発見のめやすを公開しています。医学的な診断基準ではないと断ったうえで、次のような分野の変化が挙げられています。
- 物忘れがひどい。 同じことを何度も言う・聞く、いつも探し物をしている。
- 判断力・理解力の変化。 料理や片付け、計算、運転などでミスが増える。
- 時間や場所がわからなくなる。 約束の日時を間違える、慣れた道で迷う。
- 人柄の変化。 ささいなことで怒りっぽくなる、頑固になる。
- 不安感が強くなる。 ひとりになるのを怖がる、持ち物を何度も確かめる。
- 意欲がなくなる。 趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなる。
いくつか思い当たることがあれば、一度専門家に相談してみるのがよいとされています。
「物忘れがひどい」と感じたときの相談先
かかりつけ医
まずは普段から体調をよく知っている、かかりつけ医に相談するのが近道です。必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらえます。
もの忘れ外来・専門の診療科
もの忘れ外来のほか、脳神経内科、精神科、老年内科などが専門的に診ています。国立長寿医療研究センターのもの忘れセンターのように、専門の窓口を設けている医療機関もあります。
地域包括支援センター
どこに相談すればよいかわからないときは、お住まいの市区町村にある地域包括支援センターが窓口になります。厚生労働省の認知症施策のページでも、地域の情報は地域包括支援センターなどに問い合わせるよう案内されています。
早めに相談するメリット
物忘れの背景に、ほかの病気や薬の影響などが隠れていることもあります。早めに相談すれば、原因がわかって安心できたり、使える支援を早く知ることができたりします。「年のせい」と様子を見続けるより、気になった時点で一度相談してみましょう。ご家族の物忘れが心配な方は親の物忘れがひどいと感じたらもあわせてご覧ください。
受診の前に準備しておくこと
いざ相談するときに、次のことをまとめておくと、短い診察時間でも様子を伝えやすくなります。
- 気になる出来事のメモ。 いつごろから、どんなことがあったのか、具体的に書いておきます。
- 飲んでいる薬の一覧。 お薬手帳を持っていきましょう。
- これまでの病気。 持病や、過去にかかった大きな病気、けがなど。
- 暮らしの変化。 睡眠、食欲、気分、生活環境の変化(引っ越し、身近な人との別れなど)。
- 聞きたいこと。 不安に思っていることを書き出しておくと、聞き忘れを防げます。
ご本人だけでなく、ふだんの様子を知っている家族が付き添うと、医師に伝わりやすくなります。ただし、ご本人の前で失敗を並べ立てるような話し方は避け、気持ちに配慮しましょう。
自分の物忘れが気になる方へ
「もしかして自分も」と不安になっている方もいるかもしれません。物忘れを自分で気にしていること自体は、年齢による物忘れでもよく見られることです。とはいえ、ひとりで悩み続けると気持ちが沈んでしまいます。不安な気持ちも含めて、かかりつけ医に率直に話してみてください。「何もなかった」とわかるだけでも、安心して毎日を過ごせます。
毎日の暮らしでできること
物忘れが年齢相応のものであっても、暮らしを楽にする工夫はたくさんあります。
- メモとカレンダーを使う。 予定や用事は書き出し、決まった場所に置きます。
- 物の定位置を決める。 鍵やメガネ、財布の置き場所をひとつに決めます。
- 体を動かし、よく眠る。 散歩や体操、規則正しい睡眠は体調全体を整えます。
- 人と話す。 会話は頭を使う楽しい時間でもあります。
- 耳と目の不調をそのままにしない。 聞こえにくさや見えにくさは、早めに相談しましょう。
頭を使う楽しみとして、パズルや脳トレを取り入れるのもよいでしょう。たとえばSilverMindは、高齢の方向けのiPhone・iPad用アプリで、大きな文字で時間に追われずに、毎日約6分・3つのトレーニングに取り組めます。ただし、脳トレで物忘れが治る、認知症を防げるということは証明されていません。暮らしの工夫については高齢者の記憶力トレーニングで詳しくご紹介しています。
まとめ
年齢による物忘れは誰にでも起こるもので、ヒントで思い出せる、暮らしに大きな支障がないことが多いのが特徴です。一方で、体験そのものを忘れる、暮らしに支障が出てきたといった変化があれば、ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。



