高齢者の記憶力トレーニングというと、難しいドリルを思い浮かべるかもしれません。けれど、買い物、料理、日記、会話など、毎日の暮らしの中にも記憶を使う場面はたくさんあります。少し意識を変えるだけで、いつもの家事や習慣が楽しい頭の体操になります。
この記事では、暮らしに取り入れやすい記憶力トレーニングと、物忘れを減らすための工夫、気軽に楽しめる記憶力ゲームをご紹介します。
記憶力トレーニングの前に知っておきたいこと
記憶力や脳トレについての研究結果はまちまちで、はっきりした結論は出ていません。練習した課題は上手になりやすい一方、それが日常生活の記憶力全体にどこまで広がるかは限られる、というのが現時点での一般的な見方です。記憶力トレーニングで認知症を防げることも証明されていません。
ですから、ここで紹介する方法は「記憶力を取り戻すための特訓」ではなく、「頭を使う時間を楽しむための工夫」と考えてください。メモや定位置づくりなど、忘れても困らない仕組みを一緒につくることも大切です。
毎日の暮らしでできる記憶力トレーニング
買い物リストを覚えて出かける
リストを書いたら一度読み上げ、メモを見ずにいくつ思い出せるか試してみます。お店では答え合わせとしてメモを確認すれば、買い忘れの心配もありません。「野菜」「調味料」のようにグループに分けると覚えやすくなります。紙で練習したいときは、無料の脳トレプリントの「おぼえて書こう」もどうぞ。
3行日記をつける
寝る前に、その日あったことを3行だけ書きます。「誰と会ったか」「何を食べたか」「何が楽しかったか」を思い出すことで、一日を自然にふり返ることができます。
昨日をふり返る
朝のお茶の時間に、昨日の出来事を時間の順に思い出してみます。家族と「昨日の夕ごはん何だった?」と話すのも楽しいものです。
レシピを見ずに料理する
作り慣れた料理の手順を思い出しながら作る、新しいレシピを一品覚えてみる。料理は段取りと記憶を同時に使う、とても良い頭の体操です。
歌や俳句、百人一首を覚える
好きな歌の歌詞や、季節の俳句、百人一首の一首を覚えて口ずさんでみます。声に出して、リズムに乗せると覚えやすくなります。
道順を思い出す
散歩の後に、通った道や見かけたお店を思い出してみます。簡単な地図を描いてみるのもおすすめです。いつもと違う道を選んで歩くと、新しい景色に出会えて、覚えることも自然に増えます。季節の花や、新しくできたお店を家族に話すのも楽しい復習になります。
新しいことをひとつ学ぶ
俳句や川柳を作る、簡単な英単語や手話を覚える、楽器や囲碁を習うなど、新しいことに挑戦するのも頭を使う楽しい時間です。公民館や地域の教室に通えば、人と話す機会も増えます。上手にできるかどうかより、「知らなかったことを知る」わくわく感を大切にしましょう。
覚えやすくするちょっとしたコツ
記憶力トレーニングをするときは、覚え方を工夫すると、ぐっと楽になります。
- 知っていることと結びつける。 新しく会った人の名前を、同じ名前の知人や有名人と結びつけて覚えます。
- まとめて覚える。 電話番号は「090」「1234」のように区切ると覚えやすくなります。品物も種類ごとにまとめましょう。
- 場面を思い浮かべる。 買う物を、家の玄関、台所、居間の順に置いてあるところを想像すると、思い出す手がかりになります。
- 声に出し、書いてみる。 目で読むだけより、口と手を使う方が記憶に残りやすいものです。
- 時間をおいて思い出す。 覚えた直後、少し後、寝る前と、何度か思い出してみると定着しやすくなります。
うまく思い出せなくても、がっかりする必要はありません。思い出そうとすること自体が、頭を使う良い時間です。
物忘れを減らす暮らしの工夫
記憶力を鍛えるだけでなく、忘れても困らない仕組みをつくると気持ちが楽になります。
- メモを決まった場所に置く。 冷蔵庫の扉や電話の横など、必ず目に入る場所に。
- 物の定位置を決める。 鍵、メガネ、財布、薬は「いつもここ」という場所をひとつに。
- 声に出して確認する。 「ガスを止めた」「鍵をかけた」と口に出すと、記憶に残りやすくなります。
- ひとつずつ片付ける。 同時にいくつものことをすると、どれかを忘れがちです。
- カレンダーとスマホのお知らせを使う。 予定や薬の時間は、目と耳の両方で確認できるようにします。
気軽に楽しめる記憶力ゲーム
ゲーム感覚で記憶を使うのも楽しい方法です。
- 神経衰弱。 トランプを裏返して同じ数字のペアを探します。枚数を減らせば簡単に始められます。
- お盆の上の品物当て。 お盆に5~6個の品物を並べて眺め、布をかけていくつ言えるか試します。お孫さんとも楽しめます。
- 名前と顔を覚える。 テレビに出ている人や、地域の集まりで会った人の名前を覚えてみます。
- アプリで楽しむ。 文字が大きく、急かされない脳トレアプリなら、すき間時間に取り組めます。
たとえばSilverMindは、高齢の方のために作られたiPhone・iPad向けの脳トレアプリで、「記憶力」の分野には、絵柄のペアを探す「ペアさがし」や、買い物の品物を覚える「お買い物リスト」などのトレーニングがあります。どちらも無料で、期間の制限も広告もありません。大きな文字で1画面にひとつのことだけを表示し、時間に追われることもなく、問題はその方の腕前に合わせて調整されます。ほかの脳トレのアイデアは高齢者の脳トレ:家で楽しめる簡単なアイデア集でも紹介しています。
体と生活習慣も大切に
記憶の調子は、体の調子とも深くつながっています。
- 体を動かす。 散歩やラジオ体操など、無理のない運動を習慣に。厚生労働省も身体活動・運動の推進に取り組んでいます。
- よく眠る。 睡眠不足は物忘れを増やす原因になります。
- 人と話す。 会話は記憶と言葉を自然に使う時間です。
- 耳と目を大切に。 聞こえにくさや見えにくさがあると、情報が入りにくくなります。気になるときは早めに相談しましょう。
1週間の例
毎日すべてをやる必要はありません。たとえば次のように、無理のない範囲で組み合わせてみてください。
| 曜日 | 取り組みの例 |
|---|---|
| 月 | 買い物リストを覚えて出かける |
| 火 | 3行日記と、昨日のふり返り |
| 水 | 神経衰弱やアプリで記憶力ゲーム |
| 木 | レシピを見ずに一品作る |
| 金 | 散歩の道順を思い出して地図を描く |
| 土 | 家族や友人と思い出話 |
| 日 | 好きな歌や俳句を一つ覚える |
まとめ
高齢者の記憶力トレーニングは、特別なことをしなくても、毎日の暮らしの中で楽しく続けられます。メモや定位置づくりといった物忘れ対策と組み合わせれば、忘れても困らない安心感も生まれます。もし物忘れが急に増えた、暮らしに支障が出てきたと感じたら、物忘れと認知症の違いを参考に、早めにかかりつけ医に相談してください。



